どうして、、セラミック食器を輸入するときに鉛やカドミウムの食品試験を行うのか??
まずは、おもな天然毒の種類として動物毒(動物や昆虫に由来する毒)や微生物毒(細菌やウイルスに由来する毒)、 鉱物毒(重金属の鉱物に由来する毒)があります。
*動物検疫、植物検疫のコラムでも天然毒について取り上げています。
今回のコラムでは人体に有害な鉱物毒(鉛やヒ素、フッ素、カドミウムといった重金属の有害物質)が関係します。
鉛やカドミウムを一度体内に吸収するとそのまま蓄積され続け、いつか健康障害(脳、肝臓、腎臓、骨組織などに悪影響)を引き起こします。
昔は鉱山で採掘された有害物質が地下水や排水に溶け出して公害病を引き起こしたり、有害物質を使用した工場などからそれらの有害物質が排出されて風や水で運ばれて人為的に土壌汚染を引き起こしてしまったり、もともと有害物質が存在していた自然由来の汚染土壌を別の地域の住宅などの開発地の埋め立て材料に使用したりして土壌が汚染されることで地下水も汚染され人体に悪影響を与えてきました。
現在日本では土壌汚染対策法もあり汚染物質の規制や検査が行われています。
ここからが本題ですが、セラミック食器を輸入するときに鉛やカドミウムの食品試験を行うのは鉛やカドミウムは有害物質の中でも特に毒性が顕著な物質であるにも関わらずセラミック食器の製造に使用していることが多く、その食器を長期に使用した場合に鉛、カドミウムが食器から溶け出して食品を汚染しないか確かめるためです。
食品衛生法で規格が定められている材質は【ガラス、陶磁器、ホウロウ引き】、【合成樹脂、ゴム】、【金属缶】であり、またその他の材質として【木、紙】、【金属】があります。
今回のコラムでは食品衛生法で規格が定められている【ガラス、陶磁器、ホウロウ引き】(セラミック)をクロ-ズアップします。
食品衛生法では、規格の区分【深さ、容量、目的(使用温度)】に従って鉛、カドミウムの溶出量の制限を定めています。
規格の区分について
・材質(4種類):陶器製、磁器製、ガラス製、ホウロウ引き(金属の表面に特殊ガラスを薄く焼き付けたもの)
・深さ(3種類):液体満たさない、2.5cm未満、2.5cm以上
・容量(3種類):陶磁器製 容量(3種類):1.1L未満、1.1L以上3L未満、3L以上
ガラス製 容量(3種類):600ml未満、600ml以上3L未満、3L以上
ホウロウ引き製 容量(2種類):3L未満、3L以上
・目的(2種類):100℃以上で使用する加熱調理器具(グラタン皿、鍋、やかんなど)、加熱調理器具以外のもの
輸入時に食品試験の対象となるのは、食品に直接触れる器具及び容器包装になります。
器具とは?
小売店等で販売、飲食店等で使用する飲食器具(コップ、茶わん、はし、スプーン等)、割ぽう具(包丁、まな板等)、食品製造用機械類(製麺機等)、 その他の器具(ウォーターディスペンサー等)のことです。
容器包装とは?
食品又は添加物を直接入れるビン、包む包装紙など(弁当を入れて販売する時のトレイ等)のことです。
*食品を直接入れてから(詰めてから)、消費者にそのまま販売するためのもの
器具及び容器包装の食品試験は規格試験と言い、材質試験(器具及び容器包装に使用されている基材そのものに有害物質が含有しているかどうか の試験)と溶出試験(器具及び容器包装から有害物質が溶け出すことが無いかを確認する試験)の2種類があります。
鉛やカドミウムは磁器(原料は石)や陶器(原料は土)やガラス(原料は砂や石)の原料に含まれているのではなく、仕上げ加工に使用する釉薬に含まれているため陶器製、磁器製、ガラス製、ホウロウ引きの器具及び容器包装については溶出試験になります。
ガラス釉を使用すれば陶磁器の表面がガラス化(ガラスでコーティング)して水や汚れを吸収しにくくさせ、強度も増します。
色釉を使用すれば陶磁器の表面に装飾(絵付け)することができます。
釉薬に鉛を使用するのは、低い温度で釉薬を熔かすためカドミウムは着色剤として使用されています。
(弊社はセラミック顔料の輸入通関もしています。)
800℃以上で焼けば釉薬に含まれている鉛やカドミウムは原料に吸収されそのまま硬化してその場に留まり、表面はガラス化されているので表面から外へ溶け出すことはありませんが、焼きがあまい(800℃以上で焼きあげた(素焼き)後に釉薬を塗って本焼きした温度が800℃以下になってしまう等)と鉛やカドミウムは原料に吸収されずそのまま表面のガラスコーティング のところで留まってしまい、食器を使う身近なもの(お酢などの酸)で溶け出してしまいます。(実際の試験も濃度4%の酸を使用します。)
磁器製:約1,500度の高温で硬く焼き締めたもの
陶器製:磁器よりも低い温度(約800度~約1,300度)で焼き上げたもの
ガラスについては、つくる時に鉛(酸化鉛)を使用することでガラス(原料は砂や石)を溶かす温度(1500~1600℃)を低く抑えられ、成形が容易になって透明度が高まり、着色剤(カドミウムなど)を使用してガラスに色付けしたり透明度を調整することもあります。
販売や営業目的で輸入される食品等(今回のコラムではセラミック食器など)については、食品衛生法に基づき輸入者に対して厚生労働省検疫所に輸入届出する義務が課せられています。
弊社は輸入者から委託されて輸入セラミック食器の食品試験を登録検査機関(厚生労働大臣の登録を受けた政府の代行機関)へ依頼し、その試験成績書をもとに名古屋検疫所へ食品届出を行っています。(全国の検疫所への食品届出も可能です。)
➀食品届出に必要な情報
だれが商品企画(食品届出上は製造者)をして、だれが、どこで(食品届出上は製造所)その商品をつくったのかという情報が必要です。
製造者は商品を企画した者で、製造所は実際に商品を製造している者になるため、必ずしも製造者と製造所が同じとは限りませんし、輸入申告時の輸出者と製造者、製造所が同じとも限りません。
たとえばイギリスの製造者が中国の製造所で商品を製造し、それをイギリスの製造者とは別の商社から輸入することもあります。
②どのような物・材質かという情報
商品は器具? 容器包装?
材質は陶器製? 磁器製? ガラス製? ホウロウ引き?
③その商品の規格区分【深さ、容量、加熱調理器具の該非】の情報
陶磁器製であれば、
1.液体を満たすことができない、又は深さが2.5cm未満のもの
2.深さが2.5cm以上のものであれば
・加熱調理用器具
・加熱調理用器具以外であればさらに容量1.1L未満のもの、容量1.1L以上3L未満のもの、容量3L以上のものに分かれます。
ガラス製であれば、
1.液体を満たすことができない、又は深さが2.5cm未満のもの
2.深さが2.5cm以上であれば
・加熱調理用器具
・加熱調理用器具以外であれば、さらに容量600ml未満のもの、容量600ml以上3L未満のもの、容量3L以上のものに分かれます。
ホウロウ引きであれば、
1.液体を満たすことができない、又は深さが2.5cm未満のものであれば
・加熱調理用器具
・加熱調理用器具以外のもの
2.深さが2.5cm以上のものであれば
・容量が3L以上のもの
・容量が3L未満のものであれば 加熱調理用器具 、加熱調理用器具以外のものに分かれます。
④上記の規格に応じた食品試験(溶出試験)を行い合格した試験成績書を用いて厚生労働省検疫所へ食品届出を行います。
では、試験は毎回輸入するたびに行うのか?
基本的に輸入初回時に一度試験を行えば、法律(2008年以降変更はありません)が変わらない限り同じ製造者で同じ製造所で製造した同一商品であれば2回目以降の食品届出時にもその試験成績書は有効ですが、製造所が変わると環境の変化(鉛、カドミウムを使用している工場が近くにあったりして、そこから飛散して)により鉛、カドミウムが商品に入り込む可能性もあるため、食品試験が必要になります。
着色(食品に触れる内側の色)が変われば、着色剤も異なることになるため食品試験は必要です。
コンビニなどで流行のアニメキャラクターの食器を目にしますが、キャラクターに使用する色は複雑で、少し色合いに違いがあるだけでもキャラクター権利者より販売を認められないので、サンプルを取り寄せては何回も試行錯誤して完成する商品もありますが、輸入するたびにキャラクターの色が変わってしまっては、食品衛生法上もそれはそれで同一商品とは認められず毎回食品検査が必要になってしまいます。
2008年以前は、製造所から直接日本へ送付されたサンプル(先行サンプル)を登録検査機関へ持ち込んで食品試験を依頼することができ、その試験成績書を本貨物(実際の商業目的の貨物)の食品届出で使用できたため会社にもサンプル品がたくさんありましたが、2008年の法改正で先行サンプルの試験結果が認められなくなり(実際の商業目的で輸入される貨物と同一性の確認が困難であるため) 商業目的の貨物で食品試験をすることに決まりました。
(ただしある一定の要件を満たした品目登録制度を利用すれば、先行サンプルの試験成績書を使用できます。)
そのため例えば、40フィートコンテナで満載に積んだ貨物が食品衛生法違反(鉛、カドミウムが溶出量の基準値を超えるなど)を起こした場合、そのまま輸出国へ積み戻すか国内で滅却することになるためそのようなリスクを回避するために輸出国の外国公的検査機関(輸出国政府から日本の厚生労働省へ登録要請があった検査機関)で食品試験を行い、そこで合格した貨物を輸入するケースも増えました。
名古屋港へコンテナが到着し、そのコンテナが蔵置されているコンテナヤードへ弊社が委託した登録検査機関の職員が出張して食品試験対象の貨物をサンプリングすることは可能ですが、コンテナ内に複数の食品試験対象の貨物が積まれているなど、食品試験対象の輸入数量の全体確認やそもそもサンプリングができない場合は、弊社保税倉庫へコンテナを一旦移動させてから倉庫へ入庫した後にサンプリングをすることもあります。
日本から輸出した食器を輸出国先で輸入できず(船積み後に商談不成立などの理由で)再度輸入する場合、たとえその貨物が日本製であっても、外国と日本では鉛やカドミウムの試験方法(溶出量の測定方法)が異なることもあり、海外向けに製造した貨物である可能性もあるため食品試験が必要になります。
食品届出が不要な場合は?
国内流通させない、不特定多数へ販売しないようなサンプル品などで輸入者が試験研究用や社内検討用、展示用に使用する貨物ですが、サンプル品があまりにも多いと、税関は輸入者に対して販売用でないこと(「食品届出」の不要)を証明する書類(検疫所にて発行する「確認願」)を求めることがあります。
食品試験が不要な場合は?
すでに食品試験済みの貨物と同じ製造者、製造所、材質、色、規格の区分(深さ、容量、加熱調理器具の該非)の貨物であれば、 製造者から同一規格証明書を入手すればその試験成績書を用いて食品届出を行うことができますので、新たに食品試験を行う必要はありません。
たとえば、同じ規格の商品で外側のデザイン(色)が変更になっても、内側のデザイン(色)に変更がなければ同一規格証明書でその同じ規格の試験成績書を使用できます。
ただ食品に触れる部分のデザイン(色)が同じであれば同一規格として認められますが、縁取りなどのちょっとした色が付け加えられると同一規格とは見なされず、新たに食品試験が必要になります。
輸入者が試験研究用や社内検討用、展示用に使用する商品や美術品などの観賞用のもの、包装された食品(小売用に包装されたお菓子など)などで食品に直接触れず保存するような容器包装、たくさんの部品で構成されている調理器具や食品製造機械などで食品に直接触れない部品については、食品試験は不要です。
弊社は輸入元直営店、百貨店、コンビニ、100円ショップ、テーマパーク、アウトドア用品店などで販売しているカジュアル食器、モダン食器、 キャラクター食器、バーベキューコンロなど、非常にたくさんの品数を輸入通関していますので、これからも食の安全に努められるように取り組んでいきます。
セラミック食器の材料について
・磁器(英語でPorcelainやchina)/原料は陶石(カオリンと呼ばれる長石などの岩石)
・陶器(英語でPotteryやearthenware)/原料は陶土(粘土)
・ボーンチャイナ(英語でBone china)/原料はリン酸カルシウムが多く含まれている牛骨の灰(白さを出すカオリンの代わり)と土
・ニューボーン(英語でNew bone)/原料はリン酸カルシウム(牛骨の灰の代わりに)と土
・ガラス(英語でGlass)/原料は珪砂(石英の砂)と石灰石とソーダ灰
・ホーロー(英語でEnamel)/金属の表面に特殊ガラス(ガラス質の釉薬)を高温で薄く焼き付けたもの
*セラミックス(天然の鉱物を混合し成形、焼成してつくる)に対して
半導体の原料などに使用されているアルミナ(酸化アルミニウム)などのファインセラミックス(天然原料や人工原料、化合物を混合し成形、焼結してつくる)を材料とした刃物や食器などの生活用品も増えています。
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輸入部 TEL:052-201-7785
食品衛生法
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食品等の輸入手続き(輸入届出)
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