温暖化の影響で、本来冬の季節に枯れるはずの雑草(草)が枯れないなど、身の回りに生育する雑草が増えています。
日本では雑草は身近な存在で、庭に生えていれば外来雑草か在来種のどちらか知ることなく手作業または農薬をまいて除草する程度であまり害悪視していませんが、国際的に雑草は病害虫(昆虫、線虫、ダニ、細菌、ウイルスなど)の宿主や食草(寄主植物)の存在で有害植物(Pest)として認識されています。
今まで日本の植物防疫法で雑草は有害植物として定義されていなかったので、家畜飼料の原料である輸入穀物(主な雑草の侵入ルート)や輸入農作物の中に雑草種子が混入していたとしても検疫対象外(検査対象外)でしたが、2022年の法改正(1996年以来の26年ぶりの法改正)で、日本の農業生産を脅かす存在として(田や畑が雑草で覆われている風景をよく見ますが・・)侵入雑草や種子も有害植物として正式に定義され、2023年4月1日から輸入検疫の対象となります。
また、土や病害虫(検疫有害動植物*)など付着リスクが高い中古農業機械(除草機、植付け機、肥料散布機、草刈機、脱穀機、農業用トラクターなど)も新たに輸入検疫の対象となり、検疫指定物品となります。
すでに外国では日本から輸出される新品及び中古の車両、機械等の工業製品に害虫が付着しないように輸出前処理(製品やコンテナ内を洗浄したり、くん蒸をしたりして害虫を除去する)などの措置を求める国もあります。
*検疫有害動物:農林水産大臣の指定する有害動物のうち国内未確認の昆虫、線虫、ダニなどの害虫
*検疫有害植物:農林水産大臣の指定する有害植物のうち国内未確認の細菌、ウイルスなどの病菌
たとえば、日本では普通に生息しているクサギカメムシは、オーストラリアやニュージーランドでは生息していないため、車両や機械類に付着して侵入するのを防止(検疫)しています。
また、海外から中古車を輸入する際、長期間屋外保管されていたような中古車には車体内外に土や泥の付着がないように輸出国で清掃(完全に除去)させてから輸入することもあります。
今回のコラムでは、植物検疫について弊社の事例(輸入/輸出)をもとに紹介します。
輸入植物検疫について
全ての植物は以下の3つに区分されます。
①輸入検疫(検査)の対象となるもの
・苗木、種子、球根類、いも類、果実、野菜、切り花、穀類、豆類、木材、香辛料など
・加工したものであっても病害虫が付着する可能性があるもの
(植物に有害な生きた昆虫や微生物などは規制の対象)
*上記で説明した中古農業機械も「2023年4月1日」から検疫の対象となります。
▼土や植物が付着した中古農機具(植物防疫官が土や植物を取り除き、回収する)
②輸入検疫(検査)の対象とならないもの
・製材(角材、板材で全表面、内部まで加工されたもの)
・木工品、竹工品
(置物、かご、造花や人工観葉植物の一部に使用された木でニス塗り等の防腐処理がされたもの)
・家具
・木材こん包材(消毒がされたもの)
・藤(乾燥されたものやその製品)及びコルク(コルクガシ及びアベマキの樹皮やその製品)
・綿、麻などの繊維製品や紡織用繊維の原料用に加工されたもの
・製茶(乾燥、加熱、発酵等の加工処理が行われたもの)
・発酵処理されたバニラビーン
・酢酸、砂糖、塩などにつけられた植物
(長期保存、調理を目的として食品調味料で浸漬加工された野菜や果物など)
・乾果(あんず、いちじく、かきなど)
・でん粉(タピオカ、じゃがいも、とうもろこし等のでん粉)
・植物抽出物(大豆たんぱく等)
・ココやしの内果皮を粉状にしたもの
・乾燥した香辛料で小売用の容器に密閉されたもの
(瓶詰、缶詰、アルミホイル容器などで包装されて病害虫や病菌の汚染リスクが無いもの)
*木材こん包材に消毒処理表示(スタンプ、焼き印など)がない場合は、植物防疫所への届け出て、輸入検査等が必要になります。
*まつたけ、しいたけ、きくらげ、マッシュルーム等の食用きのこ類(菌類)や海苔、アオサ、ワカメ等の食用海藻類(藻類)は植物防疫法上の植物に該当せず、検疫の対象外です。
また、きのこ類の食用菌及び醸造用として使用する菌類は植物防疫法上の有害植物に該当しません。
③輸入が禁止されているもの(輸出国の検査証明書があっても)
・植物に有害な生きた病害虫
・土または土が付着した植物(病害虫が潜伏している可能性が高いため)
・植物防疫法施行規則別表に規定するものや掲げられた植物(下記リンク添付 輸入の禁止に該当するもの)
*試験研究用、動物園、植物園、水族館等で標本として展示するためであれば禁止品を輸入できるような除外規定があります。
弊社は上記①の輸入検疫の対象となる植物の中で、主に生鮮野菜、冷凍野菜、冷凍果物、乾燥野菜などの農産品を取り扱っています。
海外から輸入する植物に有害な病害虫が付着して国内に侵入を防止する目的で、最初に到着した港を管轄する植物防疫所の植物防疫官が現物検査(書類審査を経て)をするために、輸入者は輸入時に輸入検査申請をしなければなりません。
弊社は輸入者の代理で、輸入農産品が名古屋港に入港したらまず初めに、輸出国の政府機関が日本向けに発行した検査証明書 (輸出国で検査した後に発行されるPhytosanitary Certificate(植物検疫証明書)で植物に病害虫が付着していないことを証明するもの)をもとに植物防疫所に対して輸入検査申請を行います。
実際にコンテナヤードにて現物検査が実施される場合は、東海地区植物検疫協会(一般社団法人)へ検査の立会いを委任していますが、コンテナヤードで検査ができず指定保税倉庫で検査をする場合は弊社が立ち合います。
このように輸出国、輸入国で二重検疫(検査)体制が取られています。
日本へ到着後では検査証明書の取得ができないため、検査証明書に記載されていない(検査証明書を取得していない)輸入植物や検査証明書の内容に不備がある場合は輸入できませんので、廃棄(滅却)処分となります。
現物検査で病害虫が発見されると不合格となり、消毒(消毒をすると輸入できます)や廃棄・返送の措置が命じられます。
*生鮮野菜などは消毒に使用される薬剤によっては商品価値が損なわれる可能性がありますので、消毒をせず輸出国へ返送(積み戻し)することがあります。
▼生鮮大根の線虫被害
また輸入検査は必要ですが、ごく一部の栽培用や肥料、飼料その他農林業用生産資材に利用されない植物(検疫有害動植物が付着するおそれが少ないもの)は検査証明書の添付が免除されています。
・乾燥されたもの
・乾燥かつ圧縮・細断・破砕または粉砕されたもの
・凍結(輸出国の施設で凍結処理により完全に固まっている状態または-17.8℃以下の状態)されたもの
例)コ-ヒ-豆やタバコの葉などの嗜好品、トウガラシなどの香辛料、甘草などの漢方薬、乾燥野菜、冷凍野菜、パームヤシ殻などのバイオマス燃料など
2023年8月5日から輸入貨物における検査証明書の添付が必要な植物が増えます!
例えば今まではコメ、ムギ、トウモロコシなどの穀類やピートモス、ココピ-トなどの培養資材は検査証明書がなくても輸入できましたが、2023年8月5日からは検査証明書が必須となります。
また、上記で紹介した乾物や装飾品についても、今後はその材料となる輸入植物の種類・部位(種子、枝、葉、根、果実、果皮、樹皮など)・加工(乾燥、圧縮、細断、破砕、粉砕など)・用途(肥料、飼料、農林業用生産資材など)によっては、検査証明書が必要になる可能性 があります。
基本的に輸入貨物の材料に植物が使用されている場合は、輸出国にて検査証明書を取得することで安心して輸入ができます。
詳しくは植物防疫所HPの「検査証明書の添付が免除される植物の見直しについて」の「検査証明書の添付が必要な植物」の項目に記載がありますが、検査証明書を必要とする主な植物を一部紹介します。
代表的なものは木材、穀類、まめ類、飼料、肥料、農林業用生産資材などです。
・木材
・穀類(コメ、アワ、トウモロコシ、ソバ、ムギ類など)
・まめ類(ダイズ、アズキ、ラッカセイなど)
・飼料、肥料、農林業生産資材
(粕、ペレット、キューブなどの加工品を含み、乾牧草、ダイズ粕などを主原料とする飼料、ピートモス、ミズゴケ、ココピートなどの培養資材、樹皮などの土壌被覆材など)
・ドライフラワー、漢方薬、香辛料などの乾燥植物の一部
・カカオ豆、ゴマ、タマリンド乾果、コリアンダー ・栽培用の植物(苗、球根、種子など)
・消費用の生鮮植物(切花・切葉、生果実、生鮮野菜など)
・凍結された殻付きクルミ
・禁止対象地域以外で生産された重要病害虫の寄主植物(イネワラ、モミガラ、ムギワラなど)
・水生植物(鑑賞用の水草など)
・中古農業機械の一部
▼生鮮たまねぎ(中国産)
▼飼料用の乾牧草(オーストラリア産)
*オーストラリアから日本へコンテナ直送のため動物検疫は不要
▼ココナッツ(フィリピン産)
▼植物防疫官が土や害虫が混入していないか確認
輸出検疫について
輸出植物の検査手続きは輸入と逆で、輸出先の国が日本の検査証明書を必要としているものに対して行われ、その国の植物検疫の条件に適合した植物かどうか検査をし、合格しなければ輸出することができません。
*輸出先の国の要求事項で、証明書の記載方法(商品名など)も決まっています。
海上コンテナの利用にあたり
コンテナ内外に害虫が付着して国内外へ移動させないように、清浄なコンテナを利用することが必要ですのでコンテナヤードにて高圧水洗浄、ケミカル洗浄にて虫を除去することもあります。
植物に有害な病害虫が国内外への侵入を防ぐには水際対策が一番重要ですのでこの法律により輸出入植物および国内植物を検疫、植物に有害な動植物を駆除するとともにそのまん延を防止し、農業生産の安全及び助長を図っています。
(国内植物の検疫については、南西諸島、小笠原諸島には国内未発生病害虫が発生しているため、国内への移動規制などをしています。)
弊社もその役目を努められるようにこれからもしっかりと取り組んでいきます。
今回の法改正を知ることにより外来雑草などによる新たなアレルギーを引き起こす原因が少しは減るのではないかと思いました。
農薬に依存した防除では、将来的に雑草や病害虫が薬剤の免疫をつけ防除できなくなる可能性があります。
また、「みどりの食料システム戦略」(農林水産省が2021年5月に策定)で 環境負荷を低減する政策として化学農薬や化学肥料の使用を減らし、有機農業を拡大する目標を掲げているため、国としても水際の検疫を強化することで、化学農薬の使用を未然に防止できるように努めています。
植物を使用した輸入貨物で(加工品であっても)、もしかしたら植物検疫に該当するのでは?と疑義が生じた際は必ず植物防疫所へ相談して輸入通関を進めていく必要があります。
その際の検査証明書の要/不要については、輸入する植物の植物名(学名)、部位、加工程度、用途(肥料用、飼料用、農林業の生産資材用、食品加工用、薬用など)により判断されるため、それらの情報が必要です。
一般社団法人全国植物検疫協会HP(検査証明書添付要否一覧表)にて確認ができます。
上記確認を行い、検査証明書が必要にも関わらず検査証明書を発行しない国がある場合は、植物防疫所へ相談して下さい。
また加工品の輸入検査の要/不要については、その植物の加工工程により判断されるため加工工程表が必要です。
基本的には輸入するたびに検査は必要ですが、熱加工等をされている場合(熱風乾燥やボイルされた野菜など) は、初回輸入時に再汚染のない容器包装の使用を確認できれば、2回目の輸入から検査不要となる場合があります。
輸出貨物についても、日本の植物防疫所へ確認することはできますが、最終的には輸出国先の通関業者経由で輸出国政府機関へ確認を取って頂く必要があります。
たとえば、日本でつくった竹の製品に対して輸出国先によっては竹がハーブに分類されて輸入禁止品になっていたり、製品になった竹に対して燻蒸を求めたり、国により植物に対する扱い方が異なります。
さいごに・・
植物を輸入する際は、植物防疫法以外にワシントン条約、外来生物法、薬機法など、 輸出する際は、ワシントン条約、林業種苗法などの他の法律の規制を受ける場合があります。
また生きた昆虫類、微生物を輸入する際も、植物防疫法で輸入規制がされていない(検疫有害動物でない)としても ワシントン条約、外来生物法などの他の法律の規制を受ける場合がありますので注意してください。
*近年、世間を騒がせた「ヒアリ(特定外来生物)」は植物防疫所(農林水産省)ではなく外来生物法(環境省)の管轄になります。
お気軽にお問合せください!
輸入部 TEL:052-201-7773
輸入の禁止に該当するもの
植物防疫法の改正について
輸入中古農業機械に対する植物検疫措置の適用について
植物検疫の対象となる輸入中古農業機械の範囲
検査証明書の添付が免除される植物の見直しについて
検疫有害動植物
輸出植物検疫
輸出入条件詳細情報
輸入検査における植物の種類及び検査荷口の取扱いについて
植物防疫所よくあるご質問(輸入編)
植物防疫所
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