グローバル化により人や物の国際的な移動量やスピードも上がり、新型コロナウイルスが世界中の人々の間で 瞬く間に感染拡大したように、人や物の移動は動物の生活にも影響を与えます。
身近では日本でも海外からの観光客が検疫検査をすり抜けて持ち込んだ肉製品(肉が原料に含まれているものは 原則持ち込み禁止)が豚熱ウイルス(豚熱は豚やイノシシの病気であって人に感染することはありません) に汚染されており、その食べ残しを食べた野生のイノシシが豚熱ウイルスに感染して死亡しました。
その影響で、農林水産省は日本国内の豚肉や豚肉加工品の輸出を一時停止しました。
また、直近では2022年10月下旬に国内で高病原性鳥インフルエンザ(渡り鳥が国内に持ち込み、野生の小動物などを通じて鶏舎などの鶏へ感染させる致死性の高いウイルス)が確認されたことで、家きん及び家きん由来製品(卵など)の輸出を一時停止しました。
今回のコラムでは、動物検疫について弊社の事例(輸入/輸出)をもとに紹介します。
輸入検疫について
動物検疫業務に係る主な法律
①家畜伝染予防法
偶蹄類に感染する牛疫、BSE、馬疫、豚熱や鳥に感染する家きんコレラ、鳥インフルエンザ、
家きんサルモネラ感染症など
②狂犬病予防法
犬や猫、キツネなどに感染する狂犬病など
③感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律
コウモリやサル、ヒトなどに感染するエボラウイルスなど
④水産資源保護法
生きたエビに感染するイエローヘッドウイルス、コイに感染するコイヘルペスウイルスなど
弊社は特に①の家畜伝染予防法に該当する貨物の取り扱いが多いです。
海外から輸入する家畜、畜産物(肉、乳、チーズ、ソーセージなどの加工品や家畜や家きんから生産される毛など)、家畜飼料用の乾草などの指定検疫物が寄生虫や細菌やウイルスなどの病原体におかされていないことを、最初に到着した港を管轄する動物検疫所の家畜防疫官が現物検査、精密検査(書類審査を経て)をするために、輸入者は輸入時に輸入検査申請をしなければなりません。
弊社は輸入者の代理で、輸入肉製品が名古屋港に入港してからまず初めに、輸出国の政府機関が日本向けに発行 した検査証明書(輸出国で検査した後に発行されるHealth certificate(衛生証明書)で家畜の伝染性疾病を拡散するおそれのないことを証明するもの) をもとに動物検疫所に対して輸入検査申請を行い、実際に現物検査が実施される場合はその検査にも立会います。
このように輸出国、輸入国で二重検疫(検査)体制が取られています。
検査証明書に記載されていない輸入肉製品や、検査証明書の内容に誤り(レ点のチェック漏れなどの表記ミス)が発覚した場合は輸入できませんので、焼却(減却)することもあります。
また、獣毛(洗い上げ兎毛、カシミヤ毛、あひる羽毛、がちょう羽毛等)を輸入する場合は、その加工具合により消毒(ホルマリン水によるガスくん蒸)を求められる可能性があります。
馬毛ブラシなどの完全加工品であれば、指定検疫物対象外(動物検疫対象外)となります。
農林水産省が安全と認めた国(清浄地域)で家畜衛生管理が適切に行われている(家畜衛生条件が守られている)工場で生産された家畜、畜産物しか輸入できませんし、その家畜、畜産物を日本で輸入(検査)できる港や保税倉庫も指定されています。
また、安全でない国(悪性伝染病発生地域)からの輸入を禁止にしています。
▼指定コンテナヤードにて消毒(ホルマリンガスくん蒸)の立会い
(イタリア産あひる羽毛)
▼指定コンテナヤードにて動物検査の立会い
(オーストラリア産牛肉)
▼指定保税倉庫にて動物検査の立会い
・冷凍
・加熱処理
上記のような指定検疫物以外でも2001年9月に国内においてBSE(牛海綿状脳症、いわゆる狂牛病)の発症に伴い飼料用、肥料用として輸入される魚粉についても「動物性加工たん白質の輸入一時停止措置」が取られており、魚粉製造工場において魚粉以外の動物性加工たん白質を使用している工場からは輸入が禁止されています。
また家畜飼料用として輸入する場合は実際に動物性加工たん白質が使用(混入)されていないか精密検査が行われます。
*BSEとは死んだ動物やBSEに感染した牛の肉骨粉(動物性加工たん白質)を餌として牛に与えたことにより
牛の脳の組織がスポンジのようになって死んでしまう病気です。
②の狂犬病予防法については輸出国で貨物を海上コンテナへ積み込んでいる最中に、コンテナ内に犬や猫などの動物が迷い込んでそのまま日本の港へ着いてしまうことがあります。
弊社でも名古屋港へ到着後に輸入通関をして、倉庫でコンテナから貨物を取り出す時に迷い込んだ猫を発見したので動物検疫所へすぐに連絡をしました。(狂犬病などにおかされている可能性がありますので、家畜防疫官が到着するまで勝手に捕まえたりしてはいけません。)
輸出検疫について
輸出畜産物の検査手続きは輸入と逆で、輸出先の政府が日本の検査証明書を必要としているものに対して行われ、輸出先の国が日本の畜産物等の輸入を停止している場合は、動物検疫所は輸出検疫証明書を交付しません。
また輸出先の国の要求事項により証明書の記載方法(商品名、ロットNOを記載の有無など)も決まっています。
▼指定保税倉庫にて動物検査の立会い
(台湾向けペットフード)
このように動物の病気、動物から人に感染する病気の国内外への侵入を防ぐには水際対策が一番重要ですので上記のような法律で海外からの伝染性疾病の侵入を防止し、また海外へ家畜伝染病などを拡げる恐れのないものを輸出することにより国内の畜産業の振興と公衆衛生の向上を図り、国際的な家畜衛生の向上に寄与しています。
弊社もその役目を努められるようにこれからもしっかりと取り組んでいきます。
個人的には動物園やファームなどへ遊びに行った際は、動物を触る前、触った後は必ず消毒するように心がけ、靴の消毒が必要であれば、それに従います。
持参したお弁当は残さず、また食べ残しても持ち帰るなど動物にうっかり害を与えないように行動を慎みます。
鳥インフルエンザが流行ると動物園では、感染した鳥の体液や排泄物に触れると稀に人に感染することもあるので、鳥との触れ合いが出来なくなりますが、がまんします。
豚肉の輸入通関は慎重に・・
豚肉の輸入通関は他の肉の通関とは異なりますので、通関時の注意事項を紹介します。
豚肉の輸入については差額関税制度対象となっているため、税関では慎重に審査等を行っています。
輸入申告時の提出資料ですが、個別通達で価格に関する資料として申告価格の妥当性をより一層慎重に審査するため
・輸出国における輸出者の仕入価格が分かる資料
・契約書の附属資料等、部位ごとの単価設定の妥当性を客観的に証明する資料の提示又は提出を求めるものとする
となっているため、必要に応じ輸出者のメールのやり取りも税関が求めてくる場合があります。
個別通達や取扱いについての文書を参考までに添付します。
豚肉の日EU・EPAの品目別規則では、
第2類 肉及び食用のくず肉
02.01-02.10
生産において使用される第1類及び第2類の全ての材料が締約国において完全に得られるものであること。
と規定されていますので、EU域内の完全生産品であるこがEPAの適用条件となります。
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輸入部 TEL:052-201-7773
参考:畜産物の輸出入
家畜衛生条件
乳製品の検疫開始について
輸入畜産物の検査手続
動物検疫所
豚肉の差額関税制度
豚肉の差額関税制度の適正な運用について
豚肉の輸入申告について
畜産物の輸出入停止措置情報
飼料安全法に関するQ&A